10年後のリテールのためにチャレンジする。フェズの創業者 伊丹順平が代表を退任した理由【新旧代表インタビュー/前編】

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10年後のリテールのためにチャレンジする。フェズの創業者 伊丹順平が代表を退任した理由【新旧代表インタビュー/前編】
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本日(2024年10月1日)付けで、フェズの代表取締役社長が創業者である伊丹から取締役COOとして事業を牽引してきた赤尾に交代。伊丹は海外事業の立ち上げを主管する取締役となり、役員・組織体制が変わりました。(プレスリリースはこちら

「FEZ LOG」では、2回にわたり新旧代表インタビューをお届け。前編は、伊丹のインタビューです。

2015年12月の創業からもうすぐ10年。「リテールテック」や「リテールメディア」「リテールDX」という言葉が日本にまだない頃から事業を構想し、小売企業様のご賛同を得てリテールデータプラットフォーム「Urumo(ウルモ)」を開発。主力プロダクト「Urumo Ads」は、100社・360ブランド以上の大手メーカー様にご利用いただく規模へと成長しました。

なぜ、今、代表を交代するのか?その真意と今後のチャレンジについて聞きました。

葛藤。内省。代表交代を決断するまで

代表を交代しようと思ったきっかけは?

明確に“コレ”というきっかけはないんです。
会社はどうあるべきか、どうすれば事業が成長するか、常に取締役3人で話し合っていて。今年に入ってから、誰がどう引っ張っていくのがいいかを話す中で決めました。

一方で、自分自身、この決断を準備していた側面もあるんですよ。
フェズの稟議規程では、代表の持つ権限が極端に少ないんです。代表というのは役割の1つに過ぎず、経営はみんなでやっていくものだという思想で創った会社なので。
だから、代表という役割に最も適した人がやればいいし、創業者だからといってそこに居続けるものでもない、と思っています。


とはいえ、フェズは、伊丹さんがP&GやGoogle時代に自ら感じた業界課題を解決したいという強い想いで立ち上げ、ここまで創り上げてきた会社ですよね。

もちろん、簡単な決断ではなかったし、寂しさだってありますよ。
もし、筆頭株主でなければ、代表という立場にしがみついていたかもしれない。人間だから、自分の大切にしてきたものがなくなるというのは、やっぱり複雑な気持ちです。

しかし、「想い」というものは、思い込みすぎるとエゴになる。エゴと切り分ける努力はしましたね。「株主」「代表」「役員」という役割がある中で、葛藤しつつも俯瞰してみて、客観的に自分が今何をすべきか、どうあるべきかを考えました。

お話を聞いて、1年程前に伊丹さんが「自分を律することに徹している」と仰っていたのを思い出しました。

そうですね。当時、どうすれば次のリーダーが育つか、次のリーダーに光が当てられるかを考え、行動していた時期だったんです。
創業社長である自分がトップにいることで、リーダー育成を難しくしている側面があるなと。

交代のタイミングは、なぜ今だったのでしょうか?

事業フェーズが変わったことです。

社会を変えるぞ!という熱量と、それを共に成し遂げる仲間を集めて大切に思う気持ち。これまで「社会」と「人」に目を向けて経営をしてきました。これは、起業家として必要不可欠なことだし、燃え盛るくらいの強い熱量がないと絶対にできないことです。

ただし、みんなで創った事業を自分が牽引し素晴らしい結果が出せるかというと、別の話なんですよね。ゼロイチで立ち上げることと、一を十に、十を百にしていくのとでは、適性が違う。そのフェーズに合った適任者が代表を務めるべきだと考えました。

加えて、日本の小売企業様やメーカー様が海外で勝とうとチャレンジされているタイミングにあって、今、フェズが海外に行かなければと考えたのも大きいですね。


どのように正式決定されたのでしょうか?

社内だけで議論をしても客観性がなくなるので、社外役員の野津さんや大株主など社外関係者を含めて話し合いました。決定に当たって大切なのは、役員全員が腹落ちしているかどうか。特に自分自身でかなり内省しました。

フェズという会社は、本当に社外関係者に恵まれていて。決定するまで、いつも厳しいご意見を含め色んなアドバイスをいただけるんです。そして、決めかねていると、最後は「伊丹さんが思うようにやったら」と背中を押してくださる。ありがたいですね。


自ら海外事業の立ち上げに挑むワケ

赤尾さんを新代表に選んだ理由は?

今のフェズの代表として最もふさわしいからです。

代表は役割の1つでしかないので、外部から招聘することもできなくはない。しかし、フェズの代表の務めとして、組織に根付いている大切なDNA、つまり「小売のためにフェズがある」という想いを引き継ぎ、さらに大きくしていくことが重要です。赤尾さんは、同じ想いを持ち同じ時間を過ごしてきて、フェズの歴史や「癖」みたいな部分までよくわかってくださっている。事業を安定させ、スケールさせていくリーダーとして適任です。

そして、何よりフェズの代表として大切なのは、人間性。誠実かどうかです。赤尾さんならば心から信じられる。だからバトンを渡しました。

ファウンダーとして、フェズの好きなところ・課題に思っているところは?

好きなところは、「人」と「事業」です。

人として、良い人、魅力的な人が多いですよね。チープに聞こえそうだけど、友達になれそうな人が多い。どんなに優秀でも、一緒にいて嫌な人とは働けないですから。

事業については、やっていく正当性があるし、難易度が高いからこそやる価値もある。どれだけ儲かるビジネス・流行りそうなビジネスだったとしても、正々堂々と提供できないものだと厳しいですよね。

課題に思っていることは、みんな使命感が強いせいか、大人だからか、実はスゴイことをやっているのに淡々としている印象があることですかね。まだまだ一喜一憂して、もっと「やってやった感」を出して良いフェーズだと思っています。


今後、どのようなことにチャレンジしていくのでしょうか?

日本の人口が減少していく中で、小売企業様もメーカー様も海外進出し、勝つためのチャレンジをされています。勝つためには、先を見据えて海外でもデータ基盤を整えていく必要があります。創業期のフェズがマーケットを作ったように、これはフェズがやるべきだと思うんです。

実は、2017年頃に一度タイへ進出したことがあったんですよ。当時はすぐに撤退しましたが(苦笑)

今回、国内の事業基盤が整ってきて、2年位前からリサーチや検討をする中で、ご一緒できそうなパートナーも見つかり、会社として適正に制限を設けた上でチャレンジできる状況になりました。(詳しくは、時期がきたら公表します。)

ご自身で海外事業に取り組もうと思ったのは、なぜですか?

現実問題として、日本のベンチャー企業が海外事業で成功する例は極めて少ない。それだけ難易度が高いチャレンジだと思います。

ただ、これは誰かに任せているから、という背景もあるのではないかと推察しています。自分で代表としての自分の首を切ってでもやる、それだけの覚悟と想いを持って挑むことで成功率を高めることができるのではないかと考えています。

失敗して笑われるかもしれない。けれど、万一失敗しても次に繋がるチャレンジにできる自信はあるんです。

創業前、仕事で関わっていた小売店舗のパートの方が一日中立ちっぱなしで忙しく働いているのを見て、「この方たちの時給を少しでも上げたい」「待遇を改善するために、無駄をなくし収益性を上げていきたい」「リテール業界をデータとテクノロジーの力で変革したい」と思った、その想いは今も全く変わっていません。

10年先のリテール業界のために、フェズとして今自分がやるべきことをやる。
日本のベンチャー起業家の1人として、正々堂々と世界にチャレンジしたいと思っています。


後編(赤尾のインタビュー)はこちら。