
【連載】LEADERS SESSION~トップが語るリテールの明日~

2026年もそろそろ折り返し。振り返ってみると、原材料の不足や価格高騰、顧客ニーズの多様化、AIをはじめとしたテクノロジーの進化など、2026年上半期のリテール産業を取り巻く環境は多角的に変化しました。業界専門メディアでも、構造変化を示すニュースが多く取り上げられています。
今回は、2026年後半に向けて押さえておきたい上半期の重要トピックを、FEZ MAG編集部の視点で整理しました。
2026年上半期、最も多く語られたテーマの1つが「AIが消費者の比較検討を代行する時代」の到来です。1月にニューヨークで開催された「NRF 2026」で最大の焦点となり、FEZ MAGでもインタビューや調査データに基づく考察※などで度々紹介してきました。
消費者が「目的」を伝えるだけで、AIが価格や過去の購買履歴、在庫情報を分析して最適な提案と自動調達を実行する「エージェンティック・コマース」。消費者の検索行動がキーワードの羅列から「意図(インテント)」に基づく対話形式へと進化することで、従来の検索エンジン経由の流入と比較し、コンバージョン率が約2〜3倍に向上するという実証データも出ています。
AI活用が進む中、スペック比較や条件整理といった合理的な意思決定領域において、いかにAIの推薦候補に入るか。ブランド認知、レビュー評価、第三者評価、EC上の商品情報整備などがこれまで以上に重要になり、SEOならぬ「AIO(AI Optimization:AI最適化)」を意識した施策が求められる時代が近づいています。
コスパやタイパに次ぐ第3の消費トレンドとして注目されたのが「メンパ(メンタルパフォーマンス)消費」です。SNSの普及や口コミ、おすすめ情報の増加により、無数の選択肢から「失敗しない最適解」を探し出さなければならない「選択疲れ」に対し、自分の心をすり減らさないように買い物をする動きを指します。
また、物価上昇に伴う節約志向も相まって、「失敗したくない」という心理は、実績のあるブランドや慣れ親しんだ商品を選ぶ“定番回帰”にも繋がっているようです。企業には、“安心して選べる理由”を伝えるコミュニケーションの重要性が高まっています。
そして、節約志向と相反するように見える「推し消費(好きなもの・ことへの投資)」が、このメンパ消費の究極形として健在です。あれこれ迷って脳のエネルギーを消費したくない買い手にとって、「絶対に自分を裏切らない、感情を満たしてくれる『推し』」に選択を集中させることは、最も効率よく心の平穏(高いメンタルパフォーマンス)を得る手段。節約と投資の「メリハリ消費」は、今後さらに先鋭化していきそうです。
2024年、2025年に続き、2026年もリテールメディアは注目テーマの1つとなっています。2026年上半期は、購買データに基づき、デジタル広告からインストア(店頭)の接点までを一気通貫で動かす重要性が強く認識されるようになりました。
これは、消費者の購買決定のほとんどが今なお店頭で行われている事実、そして購買意欲が最高潮に達する「売場そのもの」を最大のメディアとして再評価する動きが背景にあります。
広告と販促、ECと店舗、マーケティングと営業といった従来の組織の壁を越えた取り組みが求められており、リテールメディアは単なる広告枠・販促枠ではなく、店頭での購買体験を豊かにし、ブランド価値の向上と売上の最大化を両立させる事業成長のためのインフラとして位置づけられ始めています。
人手不足の深刻化を背景に、小売業界では店舗DXの導入がさらに加速しました。国内小売企業におけるAI活用が、業務効率化と顧客体験向上の両面で進みつつあるようです。
セルフレジや電子棚札、AIカメラなどの導入は珍しいものではなくなり、2026年はそれらをどう活用するかが焦点になっています。
注目されたのは、複数のシステムを連携させて店舗全体の運営効率を高める取り組みです。
例えば欠品検知、発注最適化、売場分析、人員配置などを統合的に管理する動きが広がっています。食品ロス削減領域でのAI・RFID活用なども象徴的です。
「人手不足対策」から売場づくりや販売機会の最大化を実現するための経営課題へと変化する店舗DX。メーカーにとっても、店舗データを活用した売場提案や販促企画の重要性が高まっており、小売とメーカーとの協業領域になりつつあるようです。
2026年上半期は、改めてブランド構築の重要性が語られた半年でもありました。
背景には、AIによる情報整理や比較検討の自動化があります。消費者が商品情報を細かく比較する機会が減るほど、「知っているブランド」「思い出せるブランド」が有利になる可能性が高まります。
近年、バイロン・シャープの提唱するメンタルアベイラビリティ(想起されやすさ)の重要性が再び注目されています。
短期的な販促施策や獲得施策だけでなく、長期的なブランド資産をどう育てるか。多くの企業が改めてその本質に立ち返り始めています。
2026年、AIは「試行」から「業務へ組み込む」フェーズへと移行しました。
マーケティング部門では、企画書作成、市場分析、レポート作成、広告コピー制作、画像生成など、多くの業務で活用が進んでいます。これはAIが人の仕事を代替するというよりも、「人とAIの役割分担」が始まったと言えます。
情報収集や下書き作成はAIが担い、人間は意思決定や戦略設計に集中する。このような働き方が定着しつつあります。
今後は、生活者理解から商品企画、アイデア創出、戦略立案、メディアプランニングまで、AIに任せる領域がさらに広がるでしょう。データの分断を解消し、統合的かつ横断的に分析・活用できるようにすることで、本質的なマーケティングの再設計(トランスフォーメーション)が実現しそうです。
サーキュラーエコノミー(循環型経済)は以前から注目されてきましたが、2026年上半期はその意味合いが大きく変化しました。
これまでは脱プラスチックやCO₂削減など「環境対応」の文脈で語られることが中心でしたが、現在は資源確保や供給安定という「事業課題・リスクマネジメント」としての重要性が高まっています。リサイクル素材の活用や資源循環の仕組みづくりは、環境配慮だけでなく、事業を継続するために不可欠な要素となっています。
特にFMCG業界では包装材の確保が事業に直結するため、循環型モデルの構築はますます重要になるでしょう。サーキュラーエコノミーは、事業戦略のテーマへと変わりつつあります。
2026年上半期を象徴するニュースの1つが、カルビー社によるパッケージのモノクロ化でした。
背景には、中東情勢の影響によるナフサ供給不安があり、包装資材の調達リスクへの対応が求められたことがあります。注目すべきは、単なる仕様変更ではなく、その背景を消費者にわかりやすく伝えるコミュニケーションとして展開した点です。
これまで地政学リスクや原材料調達の問題は、SCMや調達部門の課題として扱われてきました。しかし今回の事例は、「中東情勢がパッケージデザインを変えた」と言っても過言ではありません。つまり、サプライチェーンの問題がブランドコミュニケーションのテーマになったのです。
今後も地政学リスクや原材料供給不安は続くと考えられます。マーケターにも、消費者だけでなく供給環境まで見据えた視点が求められる時代になっています。
2026年上半期を振り返ると、消費者の購買行動、売場づくり、ブランド戦略、サプライチェーンまで、リテール産業全体で大きな変化が起きていることがわかります。
特に印象的なのは、一見異なるテーマがマーケターの仕事に直接影響し始めていることです。
マーケティングだけを見ていても、消費者だけを見ていても、最適解が導きにくくなっている昨今。テクノロジーから売場、資源循環、供給環境まで。2026年後半は、さまざまな変化を捉えつつ、リテール産業を俯瞰してみる視点が求められそうです。