
今こそチャンス!ロッテHD・玉塚元一氏と語るメーカーマーケティングの明日

リテール業界/マーケティング業界のトップランナーとフェズ代表の赤尾が「リテール産業の明日」を語り合う新連載。
今回は、ファーストリテイリングやローソンなどの代表を歴任し、現在、ロッテホールディングスの代表取締役社長CEOとして日韓にまたがるグループを率いる玉塚元一氏との対談をお届けします。
小売とメーカーの関係性の変化から、グローバルでの勝ち筋、AI時代のマーケティング、そして人生100年時代のキャリア論まで、熱く語り合います。
小売のパワーが増す時代、メーカーはどう向き合うか
赤尾:小売とメーカー、両サイドの経営トップを経験されてきたお立場から、最近の業界トレンドをどのようにご覧になっていますか。
玉塚:小売企業のパワーが、どんどん強くなっています。
1つは業界再編です。コンビニでは早い段階から大手3社への集約が進み、今、再編が加速しているのがドラッグストアやスーパーですよね。大手による統合が進むことで、一企業あたりのサイズが大きくなり、バイイングパワーが増す。これが1つ目の大きな力です。
もう1つが、お客様理解力、あるいはお客様との接点力が、デジタル技術も含めて非常に高まっていることです。各小売チェーンの会員プログラムやPOSデータ、アプリやサイネージといったリテールメディアなど、様々なタッチポイントを通じてIDベースで個別の購買行動が把握できるようになってきている。いつ、どこの店舗で、どんなお客様がどう動いているか、データが揃ってきたことによって相当深いレベルで見えるようになっています。
この2点が、小売業のポジションを高めているのは事実ですね。

赤尾:メーカーの観点ではいかがでしょうか。
玉塚:メーカーに来てみて感じるのは、魅力的な商品を創り出す力。研究所での基礎研究や商品の優位性の裏付け、そしてブランドマーケティングを非常に高いレベルでやっています。一方で、エンドユーザーとの距離感はどうしてもある。小売店では、今この瞬間もPOSを通っているお客様が何百万人といる世界ですから。
だからこそ、これからの小売とメーカーの関係は、「買う・売る」という単純な取引関係から、協業へと変わっていくと思うんです。というよりも、すでにそうなりつつある。小売企業も店舗における課題は見えているので、メーカーと組んでもっと魅力的な商品をもっとインパクトのある形で届けようと一緒に考えて実行する。「取引から取り組みへ」と関係性が変わってきています。
PBとNBの共存がもたらすこと
赤尾:プライベートブランド(PB)の存在感が増す中で、ナショナルブランド(NB)としてどう対峙しますか。
玉塚:PBとNBの共存という議論はもう20年以上続いていますが、共存共栄していくのではないでしょうか。
例えば飲料の領域では、サントリーさんやキリンさんなどはPBも手掛けていますが、圧倒的に消費者の信頼を勝ち取っています。メーカーとして、消費者の方々が感動するような魅力的な商品を作り、ブランド力と掛け算して提供していくという世界は続いていくと思いますね。
その上で、お客様が「これは価格的にもPBがいいよね」「これはやっぱりNBがいいね」と比較しながら選ぶ。比較される環境があってこそ、共に高め合っていけるのだと思っています。

赤尾:御社では、PB供給に対してどのようなスタンスで臨んでいますか。
玉塚:実は私がロッテに来た5年前は、まだPBに前向きではなかったんです。
しかし、先程もお話したとおり、お客様の最新情報を持っているのは小売側なんです。大手小売業の方々と一緒になって、新しい顧客層の開拓や新たな付加価値の創出を考え、共にものづくりをしていく。それがロッテの商品開発力をさらに強くするはずだと、強く言い続けました。
今では、アイスクリームやチョコレートなどの商品づくりを、大手小売企業と積極的に取り組んでいます。コンビニのアイスクリームの棚で、商品を裏返すとロッテの名前が見えたりする。品番数も着実に増えています。これは私たちにとって非常に重要な学びになっています。新たな知見を取り込み、商品開発力をさらに高めるための大切なプロセスです。
グローバルで勝つために大切なこと
赤尾:日本の人口が減少していく中で、多くの小売やメーカーがグローバル展開を進めています。これまでのご経験から、グローバルで勝つために大切なことは何だと思われますか。
玉塚:小売の海外展開というのは、やはり難易度が非常に高いですね。海外から日本に入ってきた場合も、世界的な小売企業でも苦戦した例があります。日本から出ていった場合も、ローソンも大変でしたし、ユニクロも最初はずいぶん苦労しました。
小売業は、それぞれの地域のニーズに対応するビジネスですから、どこまでローカライズするか、どこまで自社のDNAを守るかのバランスが非常に難しい。それに悩みながら、結局当該国で受け入れられずに撤退するケースが多いんですよ。
ただ、コストコやユニクロのように「圧倒的な特徴」を持つプレーヤーはグローバルで戦えます。
ユニクロの場合は、カジュアルウェアというドメインに絞り込み、“部品としての服”を高品質・低価格で提供するというコンセプトを徹底的に磨いた。コストコは、あのボリューム感とあのフォーマットで、圧倒的な存在感を放っている。ジェネラルな店でグローバル展開するのは非常に難しいですが、圧倒的な特徴を持てば勝ち得ますね。

一方で、今、日本はチャンスが来ていると思うんですよ。アジアに対する世界中の関心と親近感はすごく高まっていて、抹茶ブームもそうですし、日本酒もそうですし、日本のお菓子も同様です。欧米のザ・チョコレート、ザ・クッキーとはちょっと違う、アジアンなテイストや、IPビジネスに近い世界観。そこには非常に大きなチャンスがあると思っています。
私たちも40年ほどアメリカに展開していましたが、アジアも含めて本気で組み立て直します。ロッテグループ全体で見ると、韓国をベースにベトナムやインドネシアにも流通拠点がありますが、基本的な戦略は現地の一定のプレゼンスを持つ企業を買収し、M&Aを起点にして展開していくことになると思います。
AIの進化とマーケターの仕事
赤尾:AI技術の進化は、マーケターの仕事をどう変えると見ていますか。
玉塚:まずフェーズ1は、徹底的な効率化です。いろんな作業を機械に任せることで、今まで10人かかっていた仕事を2人でできるようにする。これはどんどんユースケースを作って実行していくべき段階です。
しかし、フェーズ2はもっと本質的な付加価値の向上に向かうと思っていて、その1番のポイントはマーケティング領域、特に商品開発です。構造化されたデータと非構造化されたデータを掛け算したり、膨大な消費者インタビューの動画データをAIで分析してタイムリーな仮説を立てたりという世界が加速していく。マーケティングサイエンス、データマネジメント、AIの活用。そこでしっかり付加価値を出せる人材を、メーカーも流通も強く求めるようになるでしょう。

人生100年時代のキャリア論
赤尾:多くのチャレンジを続けてこられた玉塚さんの、モチベーションの源はどこにあるのでしょうか。
玉塚:最大のモチベーションは、成長ですね。今でも成長していないと落ち着かないんです。AとBという道があって、AのほうがBより簡単なら、Bを選んだほうが成長の確率は高いと思うんですよ。そうやって道を選んできたら、だんだん癖になって、自然体でそうなっているという感じです。
だから、実はそんなに戦略的にキャリアプランニングをしてきたわけではないんですよ。目の前のことに一生懸命やっていると壁が現れる。その壁に向き合って頑張っていると、また次の壁が訪れる。その繰り返しです。
赤尾:これまでのご経験の中で、最も高かった壁は?
玉塚:今じゃないでしょうか。アジア全体で事業を展開している中で、事業ポートフォリオを転換したり、日本と韓国が1つのチームとして協力しながら進めたりしていく必要がある。両国のメンバーがワンチームで動く道筋をつけるのは、全部チャンスでもあるけれど、やはり壁として非常に高いと感じています。
赤尾:壁を乗り越えるための秘訣はありますか。
玉塚:ミッションを明確にすること、これに尽きます。何がミッションで、いつまでにどのレベルに持っていかなければならないのかを明確にする。その上で、あの手この手でアクションを続け、ポイントポイントで冷静に立ち止まって振り返り、アクションをレビューしながら微修正する、その繰り返しでしかない。
そして、与えられたミッションでベストを尽くすということですね。やり切る。その延長線上に縁が生まれて、また次のチャレンジが与えられる。ビジネス上の縁がまた新しい縁につながり、今へと繋がってきました。

赤尾:玉塚さんが、会社の未来を任せる後継者を選ぶ際に、譲れないポイントは?
玉塚:ロッテグループはグローバルカンパニーなので、多様性に対する対応力やオープンさが求められますね。今後、海外事業の比率は上がっていくので、韓国はもちろん、アジア各国やアメリカなどとの連携は不可欠。人と人が商売する上で、国を超えた多様な環境の中でもリーダーシップを発揮できることがすごく大事な要素ですね。
そのためには、相手に対するリスペクト。役職、国籍、立場に関係なくリスペクトして、チームファーストで組織をリードできることが重要だと感じます。役職で仕事をするのではなく、役割やミッションベースで仕事をすることが大切。これからAIが進化して、今まであった管理職ポジションは定義が変わっていくと思うんですよ。だからこそ、ミッションベースでお互いリスペクトしながらチームを牽引できるリーダーが求められます。
赤尾:最後に、ご自身の今後のキャリアについては、どうお考えですか。
玉塚:少子高齢化で生産年齢人口が減ってしまうと言われますが、今は人生100年時代。その定義を見直し、元気な人が働けば、実は人手不足じゃないと思っているんです。
とはいえ、ロッテのような大企業に長く勤めすぎると迷惑をかけるので、まだ先の話になりますが、ミッションをコンプリートし終わったら、スタートアップをやりたいですね。

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